ピコピコ絵画展
怪獣美人



「怪獣美人」 
2009年10月31日〜11月11日


於:ビリケンギャラリー

序に代えて:寄稿 ほうとうひろしさん(MIXI日記より抜粋)

 近代日本における「怪獣」という文化&美術テーマは、なんといっても映画「ゴジラ」のインパクトに負うところが大なのですが、ゴジラとその後継怪獣たちの映画の大成功は、ラテックスとスポンジで形作られた「怪獣の着ぐるみ」へのフェティシズムと偏愛をも発生させました。

 1980年代初頭から怪獣マニアの間で盛んになった趣味に手作り怪獣フィギュア作りがあります。
怪獣という子供じみたテーマをオトナ目線でとらえ直そうとする気運と、模型制作者たちのなかにある暗黙の了解事項として「精密なものほどグレードが高い」というリアリズム偏重の不文律があるので、彼らによってつくられた怪獣フィギュアは年を追うごとに「リアル」に変化していきました。

 その「リアル」さとは怪獣らしさの追求……生きているような怪獣……というのではなく、着ぐるみに実際にある背中のチャックやら、咽もとの空気穴、ウルトラマンなら目玉下の覗き穴からウエットスーツ生地の繋ぎ目、などへの注視でした。その観察の成果はいちいちフィギュアに刻印され、怪獣フィギュアファン共通の情報となっていったのです。

 しかしその「クソリアリズム」は突き詰め過ぎた結果、「怪獣」への偏愛ではなくて「特撮用の着ぐるみ」へのコダワリとなってしまいました。結果的には、いつのまにか「怪獣」という愛すべき暴れん坊のくるおしさや熱情はないがしろになっていたんです。

 ピコピコさんは、そういう頭でっかちなひと特有のドツボにははまらなかったアーティストです。
「一日一善」ならぬ「一日一獣」、そう毎日一匹怪獣をデザインし続けているのです。
そのようにしてオリジナルにデザインされた怪獣を自ら着ぐるみ化し、ライブパフォーマンスも行います。
 

 ピコピコさんの怪獣はたとえば王道であるゴジラのような怪獣は一体もありません。ウルトラ怪獣でいえばカネゴンやガラモン、ヤメタランス、バリケーンといったような自然界にはあり得ない姿形をした純粋に想像力で形作られたような奴らばっかりです。
着ぐるみになるデザインもあれば、30センチくらいのフィギュアになったデザインもあり、
立体的にカラーイラストに描きおこされたデザインもあります。

 表現法は異なっても、仕上がったピコピコ怪獣達はそのどれもがなんか着ぐるみクサイのです。
これはピコピコさんにとって「ホンモノのリアルな怪獣とは、子供のころTVで毎日見ていた着ぐるみ怪獣のことなんだ。アイツらは自然界ではあり得ないシュールなディテールの表皮を持ち、おしなべて短足で頭でっかちな不思議な生き物なんだ」という感覚があるんじゃないかと思うのです。

 あるいは「怪獣なんてやっぱりこの世にいないんだ! 怪獣はスポンジとラテックスの固まりに人間が中に入って動かしているだけなんだ(号泣)・・・
まてよ? 怪獣好きの自分がデザインした怪獣の着ぐるみに怪獣好きの自分が入って演じたら、それは“本当のリアルな怪獣”になるかもしれない、いや、なるはずだ!(狂喜)」と思っていらっしゃるのかもしれません。

 そんなムズカシイ思索を、もう何年間も行い、既に1000匹以上の怪獣も考えて、考えて、考え続けている人です。
ロダンの彫刻の男よりもきっと多くのものごとを考えているはずです。




自作解題


「怪獣F」


「怪獣FとT」

今回の展示の道標とするべく最初に描いた一対の作品。
怪獣と女性がモチーフなのですが、両者を対立概念とするのではなく同一のものの「外と内」に配置したのです。
もしも怪獣から美女が出てきたら…という妄想から作品化したのではなく、実際にピコピコ怪獣にはうら若き女性達が
入ることが多いので、じつは発想の源は楽屋裏の風景なのです。

FはフランケンシュタインのF。
東宝フランケンや、「キングコング」の没続編「キングコング対フランケン」のような“巨大怪獣”フランケンの自分なりのイメージです。
ジャンボマックス方式で着ぐるみ化したいです。


「怪獣Fの肖像」

眉間に向かって線が集中していくデザイン。
鼻が眉丘にもぐり込んで、鼻の下の溝が延びています。
ラゴンとかガラモンの顔に似てしまった。


「振り向き1」

「振り向き2」

見返り美人。
キャッチーな絵が描きたかったので、怪獣は格好良い系(ピコピコにしては、だけど。)にして、女性はお尻を強調してみました。
怪獣はリアル造形でソフビ化したいなぁ。


「怪獣解剖1」

「怪獣解剖2」

この怪獣は裏返ってしまっているので、外側の世界が自分自身の体内で、内側が外界なのかもしれぬ。
内臓の中にいる人というのは、糞であろうし、胎児でもあろう。
怪獣自体のデザインは、グロテスクなモチーフを嫌ったらしい露悪趣味に陥らないように表現しようとしたもの。
着ぐるみ化したいです。


「ガゴモ」

「少女」

よくあるモチーフの「女性を抱える怪物」と「人形を抱える少女」を鏡面化。
「女性を抱える怪物」像に内在する男性的支配欲求は、女性に支配されたいという願望と表裏一体なのだな。
怪獣は、アメリカの怪獣漫画に出てきそうな感じでデザイン。
慎み深く欲望を押さえ込んだパンツがチャームポイント。


「怪獣・少女」

怪獣と人間が入れ替え可能であることの確認。
マトリョーシカ式のソフビにしたいです。


「変身サイボーグ少女」

タカラの「変身サイボーグ」の女性版が欲しいなぁ、という絵。
サイボーグ体の絵は、「バイオニック・ジェミー」のフェムボットとスペクトルマン変身時の透視図のパクリ。


「自喰い」

ゴヤの「我が子を食うサトゥルヌス」のパクリ。
こういう気分の時ってあるよね?


「ケトンチュ」


「オーグノム」

この二点は古い作品。
ビル群や逃げ惑う人々などの対象物を置かずに、怪獣を純粋に怪獣のみで描くという試みの最初のシリーズ。
今回加筆して出展しました。


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